飯田市橋南第一地区市街地再開発事業 LABO-006号
平成13年7月26日猛暑のなか竣工式が行われました。この事業の事をご存じの方々は皆「え!もう出来たの?」と驚かれます。研究会発足から8年、準備組合設立から4年という時間は、地権者の皆さんや関係者にとっては、さぞかし長い年月であったことでしょう。しかし、再開発の世界ではこの年月は異例の早さを意味します。
1、丘の上のまちづくり
丘の上の整然とした街並みで知られる飯田の中心市街地の空洞化に歯止めをかけ、かつてのような賑わいを取り戻そうという「まちづくり」の発想がこの事業を支えています。この再開発事業にも難題は山積みでしたが、幾度もの困難に直面するたびにこのまちづくりの原点に戻って解決策を見出してきた、それがこれだけの期間で竣工にこぎつけた最大の秘訣であり、大いに示唆的と言えましょう。
なんとこの建物は既存店舗の増築工事として建築確認申請を受けていますが、これも地域ならではの事情を優先させた現実的な対応でした。分譲住宅の販売、テナント誘致そしてビル管理を行う目的で地元主体で設立された株式会社まちづくりカンパニーの存在も事業の早期実現に大きく寄与しています。
耐火建築でなければならない再開発ビルでは解体するしかない木造の倉も、飯田の伝統を残すために特例で残すことができましたが、そのようなところにも地元の熱い情熱と国県の前向きな対応を感じます。
こうした一連の流れの中心となったのが、現地に設けられた市のまちづくりサロンでした。様々な会合等を行う場所でもありますが、まちづくりかけ込み寺的な開かれたサロンという設定が丘の上のまちづくりのポイントのようです。
2、飯田風味
伝統や風土など地域性を建築にどのように反映させるか、これは建築家にとって永遠の命題です。ましてや飯田の丘のように、地形、街路、景観などに明快な特徴がある場合には、ややもすれば直接的なデザイン表現、たとえばリンゴやアルプス連山の形や色合いをそのままモチーフとするような手法に陥りやすいものです。
ましてや新しい飯田のシンボルとして期待されているこの建物に対して、様々な意見や要望が寄せられましたが、設計者としての決断は「どことなく飯田風味の近代的ビル」でした。しかも、東京のよそ者が勝手に描く「飯田風味」なわけです。
新宿から4時間もバスに揺られて飯田に着くと、実は飯田風味はたくさん溢れています。雪をいただいた南北アルプスの連山、飯田大火にも焼け残ったとされるなまこ壁の倉造り、とりわけリンゴ並木通りをはさんで筋向かいに昨年開店した三連倉、大火の復興で導入された裏界線の独特の空間、そして設計打合せに何度も伺った地権者の皆さんの町家空間の印象。
こうして感じ、受け止めた私なりの飯田風味を自分なりにまぶしてつくりあげていった結果が、いま現地に出現しました。吹き抜けピロティと倉のある広場、黒の格子モチーフをちりばめた外観、リンゴ並木に大きく開かれたカラフルな商業中心の顔、地上4階から上に再現した路地空間や通り抜け通路などをふんだんにとりいれた飯田風高層住宅、そしてこれらを高齢者や弱者にやさしくつくりこんだつもりです。これからは、住まい手の皆さんが本物の飯田味にフィニッシュしてくださることでしょう。
3、まちづくりの今後
冒頭に述べましたようにこの再開発ビルは、これから繰り広げられる飯田の「山の上のまちづくり」の第一章に過ぎません。第二、第三地区へと再開発事業が展開するでしょうし、また様々なタイプの建て替え事業や共同化事業などにも波及することでしょう。ただ、まちづくりの最終目標は「誰もが快適に生活できる美しい都市空間を実現すること」ではないでしょうか。街全体を見渡すときそうした大目標に向けて、なすべきことは山ほどあることを痛感します。この建物がひとつのきっかけとなることを願って止みません。