建築家の仕事

建築ジャーナル作品集への序文

 建築家の仕事は「作品」を通して評価される。評価されるのはいうまでもなく社会それも社会一般であり、歴史がその評価を不動のものとする。

 現代社会が建築家に求める仕事は多岐にわたり、ゆえにその「作品」は多種多様である。建物を築造することを目的としない仕事すら存在するのであって、竣工物は建築家の「作品」の一つに過ぎない。

 かつてわが国の建築家の主たる役割が公共建築の設計であったころ、建築家は社会一般から遠い存在であった。この間多くの「作品」が世に送り出されてきたにもかかわらず、社会一般にとって日常空間である「いえ」と「まち」は、美しさや快適さとはほど遠いものとなってしまった。

 いま多くの人々が当然の権利としてよりよい生活を求め、より良い「いえ」と「まち」を求めている。一般の住宅やマンションに、そして身の回りの生活舞台のすべてに、より快適な空間と環境を求めている。

 こうした社会のニーズに対応してきたのは建築家の側ではなく、都市計画や社会工学の領域の専門家たちであり、都市行政や環境行政がそれらを支えていった。都市開発デベロッパーがまちづくりの主役となり、都市プロデューサーや環境デザイナーといった新しい分野のさまざまな人々が、都市づくりに、環境づくりに参画していった。

 今日的状況における「建築」は、都市空間または自然環境の一要素として位置づけられ、きわめて複雑な計画のプロセスを経て、他分野の人々との合意形成の結果として達成される。建築の領域は限りなく広がり、建築を生み出すプロセス自体の重要性が問われている今日、建築家の仕事もまた広範囲におよび、最終的な建築行為に至る前段階からさまざまな立場で参画することが求められている。

 建築家がまちづくりや環境形成に係わらんとするとき、こうした発想の転換が求められる。インテリアの改装や小住宅の設計はもとより、一冊の報告書にまとめられる企画提案や調査研究、コミュニティー活動への支援、環境保護やまちなみ景観整備の運動といった「見えない」ものづくりも含めた全ての行為が「建築家の仕事」であり「作品」である。