南米から見た日本の社会システム

「建築家に聞く・世界の中の日本」 2010年5月28日 建設通信新聞 掲載

ブラジルは大卒で建築資格
「南米(ブラジル)から見ると日本の社会システムはどうなのか、日本の建築界はどうなのか」

 地球の裏側、朝昼夏冬すべて逆さまな国が南米ブラジルである。社会習慣にも建築界にも「逆さま」なことが多い。定刻に訪問するのは失礼でホームパーティなら30分後に到着が礼儀だし、車が追突したら前の車の急ブレーキが悪い。さて建築界にもいくつかの逆さまや違いがある。一昔前10年間サンパウロの設計事務所に勤務した経験からいくつかの違いをご紹介する。

日本の試験なら不合格
  何と言っても違うのは建築家の社会的地位である。建築家として仕事をするにはCREAという資格が必要だが、国家試験はなく大学建築学部(FAU)の卒業がそのまま資格として認定される仕組みである。ブラジルでは大学進学率は約10%と低く、そもそも大学出というだけで日本よりは相当価値が高い。とくに医学部とならび優秀な学生が集中する傾向にある建築学部卒業生は、はじめからエリートとして世に出て行く。富裕層出身者が多く、所得水準も高い。
  建築家の定義もかなり違う。彼らが日本の一級建築士試験を受けたなら間違いなく全員不合格であろう。ブラジルでの建築家は技術職ではなく「アーキテクト」なのである。製図はドラフトマン(Desenhista)に、確認申請は技師(Projetista)に任せきる。もちろん構造も設備もエンジニアに任せる。だから日本の学科試験も製図試験もアウトなのだ。

建築と都市を区別なく
  では何ができるかと多くの仲間たちや部下たちを疑う場面も多かった。最近日本でも議論されはじめている「計画意匠統括」がブラジルの建築家の役割なのだ。もちろん個人差もあるが総じて「絵」は上手い。多くは建築と都市を区別無くとらえている。学部名を直訳すれば建築(Arquitetura)都市計画(Urbanismo)学部(Faculdade)である。クリティーバやブラジリアで知られるように都市計画と建築は一体的に語られ、アマゾンを抱える伝統から環境問題にも詳しいのが建築家ということになる。社会性や政治性は建築家の必須アイテムであり、政治、世界、文化など語らせたら止まらない議論好きが多い。
  こんな気質はラテン世界のひとつの標準型なのだと実感できるのが世界建築家連合(UIA)だ。ブラジル建築界はUIAを非常に重要視している。お祭り好きという国民性もあってか、3年に一度の世界大会への参加率もきわめて高い。来年の東京大会にも大勢来日するであろう。前UIA会長の建築家ジャイメ・レーネルはパラナ州知事を8年間務めた手腕家であり、ブラジル大統領選挙に立候補すると噂された男である。技士ではなく建築都市総合プロデューサーといった側面が強い建築家である。一級建築士として工学的設計瑕疵が重く問われるわが国とはかなり異なる建築家像がそこにある。

排除でなく迎え入れる
 最後に指摘したいのが建築界の国際化である。まったくポルトガル語を話せなかった私を、ブラジルという社会も建築界も違和感無く迎え入れてくれた。国民すべてが移民の子孫であるこの国の社会は上手くしゃべれない外国人の扱いに慣れている。排除の思想はなく同胞として暖かく迎え入れてくれる。日本人南條がポ語が下手なのは当たり前で、そんなことより南條が日本から持ち込んだ知識や経験を吸収することの方に関心があるのだ。日本では外国人を迎え入れる風土が希薄だ。とくにこれからの国際化ではアジアの同胞たちとの交流と協調が必要ではないか。移民国家ブラジル体験者としての印象である。